第9回 ライフアップ通信 5月号


<通信記事より抜粋>

  • 理事 北尾芳

今回は、「相続」の知識について、実際の事例をあげてお話したいと思います。

①うちには子供がいないから夫の財産は全て妻の私が相続する

相続が発生し遺言書が無い場合は、法定相続分による遺産分割が原則で、夫に両親または兄弟姉妹がいれば彼らも相続人となります。相続人全員での遺産分割協議が必要ですから、妻が全て相続できる訳ではありません。

【事例1】女性(50代)[子供無し、義父母(80代)]

女性の夫(50代)が急性心筋梗塞で他界。夫の相続財産は評価2000万円程度で、その内訳は女性も住む不動産、株式及び預貯金。夫には遺言書がなく、法定相続分では配偶者である女性が3分の2、義父母2人合わせて3分の1であるが、女性としては今後の生活もあり、また祭祀承継者として姻族関係を継続するため、法定相続分より多く相続できると考えていた。また、夫の生前中は義父母との関係も悪くなかった。ところが、夫の四十九日法要後に女性が義父に遺産分割協議の話をしたところ、義父の態度が豹変し、「息子の財産は全て親である私たちがもらい、お前には1円も渡さない。」と詰め寄り、協議ができる状態ではなくなる。その後家庭裁判所での調停となり、女性と義父母は調停案での遺産分割に合意し解決したが、高額な弁護士報酬を双方が支払うことになった。

②うちにはたいした財産がないから大丈夫

土地、家、預貯金はありませんか。狭い土地でも、築40年の家でも、少額の預貯金でも相続財産にかわりありません。また、借金などマイナス財産があれば放置することは出来ません。尚、プラス財産よりマイナス財産が多く、相続したくない場合は、相続開始を知った日(実際は被相続人の死亡日)から3カ月以内に家庭裁判所に対して「相続放棄」を申述しなければなりません。これを怠ると相続を承認したとみなされ、被相続人が残した負債を相続人が背負うことになってしまいます。

③うちの子供たちはみんな仲が良いから問題ない

子供たちにも家庭があり、それぞれの立場や生活環境なども異なります。相続となれば、それぞれが権利を主張する利害関係人になります。また、被相続人に離婚歴があり、前配偶者との間に子供がいる場合は、その子供も相続人となるため、異父母の兄弟姉妹間で思わぬ争いに発展する可能性があります。

 

【事例2】男性(30代)

男性の父が他界。母は先に他界していたため、法定相続人は子供である男性のみと思われていた。しかし、専門家に遺産分割協議書作成などを依頼し、相続人調査をしたところ、男性には異母兄が存在することが判明した。男性の父には40年前に離婚歴があり、男性は離婚歴のことは知らされていたが、異母兄の存在までは知らされていなかった。父には遺言書が無く、異母兄との遺産分割協議の結果、男性が20分の19、異母兄が20分の1を相続することで合意したが、もし異母兄が法定相続分の2分の1を主張した場合は、協議がまとまらず、相続争いに発展した可能性があった。

まとめとしまして、【事例1】は、遺言書を作っていれば「相続」が「争続」にならずに済んだと思われます。【事例2】は、幸いにも争いには至らなかったが、遺言書を作っていればスムーズな相続手続きが行われたと思われます。(※但し事例1は義父母に、事例2は異母兄に遺留分権利があり、それらに配慮した内容の遺言書を作る必要があります。)

遺言は自らの死後のために遺した最終意思表示であり、遺言書を作成することは、受け継ぐ相続人間の争いを未然に防ぐ「第3の保険」と言っても過言ではありません。

ライフアップ・かわせみでは、遺産分割や遺言書作成など相続に関するご相談を随時承っております。